講座内容
◆5/26 オリエンテーション ★ 中国社会の「表現」─記録と記憶の間 ■丸川哲史(明治大学政治経済学部 准教授) 中国社会には「表現の自由がない」という言い方には難点がある。表現は確実にあるからだ。そもそも中国の表現者たちは種々のプレッシャーを撥ねのけるためにも、「表現」の強さを求め続けて来た。そしてそれが、中国の伝統となった。 ◎資料映像 『一瞬の夢』 監督:賈樟柯(ジャジャンクー) 108 分/1997 年 青年・小武(シャオウー)は、自立していかねばならない歳になってもスリから足を洗えないでいた。仲間にも見放されて孤独な日々を送っていたが、メイメイとの出会いによって変化していく。偶然に訪れた小さな幸福、はじめて芽生えた将来への「夢」。だが、二人の前には容赦なく「現実」が立ちはだかる。ベルリン国際映画祭で最優秀新人監督賞、最優秀アジア映画賞を受賞する他、国際的な評価を一気に得た話題作。 『鬼が来た! 』(原題: 鬼子来了) 監督: 姜文(チアンウェン) 140 分/2000 年 第二次世界大戦末期の日本占領下の中国を舞台に、村人たちと日本兵との奇妙な絆と、やがて一転する狂気の結末までをユーモアと衝撃で描く。2000 年カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。 |
◆6/23 ★文化大革命から天安門 ―越境者たちが語る「民主化」と弾圧 ■監督トーク:翰 光(映画監督) 中国の文化大革命は人民に主権と自由を与えたのか?秦以降2000 年の文化の核心は価値のある遺産なのだろうか? 23 年前の天安門事件後からはじまった経済急成長は世界を救うのか? 善か悪か? 亡命大国の越境者からその歴史と現実、真相が語られる。 ◎上映作品 『亡命』 監督:翰 光 118 分/2010 年/ 編集・制作:ジャン・ユンカーマン 中国では、1960 年代の文化大革命から1989 年6 月4 日の天安門事件までの間、多くの人びとが世界各国への亡命を余儀なくされてきた。中国政府は、経済発展の続く現代においても情報封鎖や言論統制によって民主化の動きを封殺している。翰光監督は、日本に拠点を置く表現者。留学生として来日中に、自分が影響を受けた中国の知識人たちが海外に亡命していたという事実と出会う。今も異国の地で不自由な生活を強いられている亡命知識人、作家、芸術家、政治活動家たちの発言を通して中国の民主化が意味するもの、そして人間の尊厳について問いかける。 |
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◆7/28 ★記録を掘り起こす、記憶をつなぎあわせる、未来を描く ■土屋昌明(専修大学経済学部 教授) このフィルムは、中国1950 年代の政治運動で投獄され殺害された林昭という女性を認識しようとするドキュメンタリー映画です。映画のストーリーは監督本人の行動としてまわされていますが、林昭のことを知っている多くの人がインタビューに登場します。また、その監督本人を私が取材した映像も披露する予定です。 ◎上映作品 『林昭のたましいを探して』 監督:胡杰(フーヂェ/胡傑) 116 分/2005 年 林昭(リンヂャオ)は1957 年に右派とされ、60 年に逮捕、68 年に殺害された。彼女は自由を求める強烈な個性で友人たちを感化し、獄中では膨大な詩文を血で書いた。本作品は、監督が林昭を調べる過程で出会った関係者の証言から成っている。 |
◆9/15 ★「天安門事件」と「南巡講話」の後 ―資本主義化/グローバリゼーションの中で生きる庶民 ■丸川哲史(明治大学政治経済学部 准教授) 1990 年代からの中国社会の変化を叙述することに成功した中国映像作家は数少ない。賈樟柯の遺した仕事は、中国社会を知るためのヒントがいっぱい詰まっている。それは中国人が資本主義=グローバル化と闘って来た痕跡なのだ。 ◎資料映像 『世界』 監督:賈樟柯(ジャジャンクー) 133 分/2004 年 北京市郊外のテーマパーク「世界公園」。世界中の名所を縮小して並べた公園は人気観光スポットでもある。この公園内のダンサーが映画の主人公。地方のさびれた町から、経済発展著しい北京に出てきた若者たちは、いつしか大きな夢も手放し、漠然と日常を生きていくだけになる。生への渇望を艶やかな映像で繰り広げる賈樟柯監督の代表作。 『長江哀歌』 監督:賈樟柯 113 分/2006 年 長江の山峡ダム建設という国家的な大事業のために水没する古都・奉節。炭坑夫サンミンは、16 年前に別れた妻子を探しに山西省から奉節にやってきた。シェン・ホンは、2 年間音信不通の夫を探しにやはり山西省からやってきた。壮大な自然の中に置かれたコンクリートの瓦礫の山々。伝統も文化も、「過去」のものはすべて解体されダムの底に沈み、数百万人が故郷を捨てて立ち退きを迫られた。巨大国家中国の経済発展の暗部を描き、国家とは何か、個人とは何かを問う。 |
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◆10/27 ★映画を見る運動と中国インディペンデント・ドキュメンタリー映画 ■佐藤 賢(立教大学現代心理学部 非常勤講師) 中国における独立的な表現活動は、人的ネットワークに支えられていることが多く、インディペンデント・ドキュメンタリー映画制作の背景にはシネクラブ運動の存在が指摘できます。そうした映画を見る運動に注目しながら、映画、そして中国を「見る」ことの難しさと可能性について考えます。 ◎上映予定作品 『三元里』(監督:San Yuan Li)、『現実、それは過去の未来』(監督:黄偉凱)などのドキュメンタリー作品の中から上映予定。 2000 年前後、中国各地の都市にシネクラブが結成されるが、その中でも広州・深圳で組織された「縁影会(U-theque)」は、映画上映運動から、さらに映画制作に踏み出していく。そして生まれたのが『三元里』(2003 年)である。この作品は、都市開発によって貧困や犯罪の街となったかつての貿易都市・広州の旧市街地「三元里」の姿を描いている。さらに「縁影会(U-theque)」に参加したメンバーの中から、『現実、それは過去の未来』(2009 年)の監督・黄偉凱のように、独自にドキュメンタリーを制作する監督も現れるなど広がりを見せている。 |
◆11/24(予定) ★中国ドキュメンタリー映画の「現在」 ─女性・農村・ひとり製作体制 の視点から ■藤岡朝子 (山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局 ディレクター) 中国は圧倒的に若い男性監督が多い。しかし社会の様々な現場で生きる当事者の声を映しだすには、もっと多彩な作り手こそが力を発揮する。山形国際ドキュメンタリー映画祭で紹介されてきた中国の女性監督たちを見つめてみたい。 ◎上映作品 『長江にいきる 秉愛(ビンアイ)の物語』 監督:馮艶(フォンイェン) 117 分/2007 年 長江のほとりで家族とつつましく暮らすお母さん、秉愛(ビンアイ)。働き者の彼女にとって、育ち盛りの子どもたちを育て病弱な夫と連れ添うことは、とうとうと流れる川のように十分な幸福だった。しかし政府からの突然の移住命令によって、平穏な暮らしは一転する。甘い言葉や脅迫で一家を追い出そうとする役人に対して、学もコネもない秉愛は頑なに拒むしか手がない。次第に一家は追い詰められていく。人びとの暮らしの視点から開発という名の暴力を描き出す。 |